Text_Viola Kimura
今回のゲストは写真家・若木信吾氏。写真家として前線で活躍していながら、映画制作、監督や編集出版までその活動の幅は広い。2010年には出身地である浜松に本屋BOOKS AND PRINTSをオープンした。近年では撮影に加え自身で取材執筆も手がけ、インタビューをまとめた書籍『希望をくれる人に僕は会いたい』を発行。故郷浜松に眼差しを向けながら国内外多くの土地へ赴く彼に、都市との関係性や現在の表現について話を聞いた。
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東京が活動の拠点ですよね。丸の内へは?
「撮影で来るくらいかな。おしゃれなオフィス街だなあというイメージ。この10年、道がどんどん良くなって、多くのビルが建っていくのを見てきました。遠巻きに変化を目撃してきている、という意味では親近感があります」
今の東京の空気をどのように感じていますか?
「東京に暮らしているし、仕事の席もあるけれど、昔から変わらず外から眺めている感覚がしていますね。ただ海外へ赴くことが多いので、言語が通じる安心感みたいなものはあります。NYをはじめ海外の都市だとどうしても言葉の壁がありますから、そこに関しては東京ではリラックスできますね。だからここがどれだけ変化していっても、ずかずか入っていける場所ではある。そういう意味では、長年撮りたくなる街であることには変わりありません」
海外を含めさまざまな土地へ足を運んでいますが、街と自身との関係性をどのように捉えていますか?
「色々な触り方がありますよね。食事をしたりといった、歩かなければわからないベーシックな触り方もあれば、一方で携帯で検索してリンクしながら行くことも。歴史や人に焦点を当てて、自分の好きな作家とか芸術家の過ごした場所を訪れたり」
最近行って面白かったところは?
「フィンランド。落ち着いていて良かったです。旅先でいつも通りに過ごすことができるかどうかって大切だなと。写真家だから、良い写真が撮れるところ、クリエイティブなことが出来るところが、好きな場所なんですよね。最近だと文を書いたりとか」
写真家として長年のキャリアがありますが、今はご自身にとってどういったステージになるんでしょうか。
「まだまだですけどね。今面白いなと感じているのは地方都市です。所謂「街づくり」っていう言葉で若い人たちが色々戻っていってて。生まれ育った場所を快適に、自分たちの年代世代の理想に合わせて変えていこうっていう動きがありますよね。それのサンプルが、アメリカだったりオーストラリアだったりもするけれど、それがすっと彼らの腑に落ちてて。「じゃあアメリカ村をつくろう」みたいな「それっぽいものをつくろう」っていうことじゃなくて、「自分の地元は湖の畔がすごく気持ちよい場所だから、そこに好きなコーヒースタンドをつくったら良いんじゃないか」みたいな発想で、田舎で自然にやっているところが良いですよね。ちゃんと自分たちの場所をよく見ている」
出身地である浜松で開催された展示はこれまでの集大成ともいえる内容でしたね。若木さんの写真家としての出発点でもある、おじいさまの写真を編集した『Takuji』、幼なじみの二人を撮った『英ちゃん 弘ちゃん』の作品も並びました。NYへの留学時代から度々帰省しては彼らを撮っているということですが、現在でも?
「月に1度程度の頻度で戻っています。祖父と幼なじみのうちひとりは亡くなりましたが、弘ちゃんのことはタイミングがあれば今でも撮っていますね」
そうやって企てる人も増えましたし、その人たちが作る場があることで人の流れができていますよね。BOOKS AND PRINTSには地元の人だけでなく、外からわざわざ行くお客さんも多いですよね。
「そうですね。遠くから来てくださる方がすごく多くて。不思議ですよね。ちゃんと本屋として売上げを出せているのは凄くラッキーでありがたいです。僕らがやっていることが、どうやって維持継続していくかといった点で良い事例になればと思っています」
最近ではnoteも始められましたね。若木さんによるインタビューをまとめた書籍『希望をくれる人に僕は会いたい』もとても素敵でした。文章は以前から書いていたのですか?
「全然です。少し書くようになったのは携帯やパソコンといったガジェットを持つようになったからこそですね。本も、携帯でちょこちょこ書き留めたところからつくっています。写真をやってると色々なものが目に入るけど、それを繋いでいくのって意外と大変なんです。文章って、そこをさらっと繋げてくれる。自分が思い描いた目の前の景色を、すぐに形にできる。もちろん一枚の写真やインスタを使ってもできるけど、文章で800字に膨らませるのと、写真を撮ってプリントを焼くところまでつくるのとでは意外に写真の方が手間がかかるので、もっとライトにやっていければと思ってます。自分にとっての名作をつくるのって、凄く大変です。でも、そんな気負いせずに、仕事の合間にちょこちょこ「これやってみたいな」って文章を書き留めておいたり、インタビューしてみて文字起こしして編集してみたりとか、やりたくなるんですよね」
文章を書くこともそうですし、BOOKS AND PRINTSという場を持つことも表現のひとつですよね。
「そうですね。僕にとって写真に関する情報はメディアを通してやってきたけど、伝えることもメディアを通してする事の方がしっくりきてる。写真も音楽も映像も文章も、メディアと直結している時代だから、すごく心地よいんですよね。昔の厳選された洗練された人たちだけが出てくる雑誌とは違って、みんな繋がっている。だからどんどん表現する人が増えていけば良いと思う。溢れ出すけど、そこで鼻が利くかっていうのも今の時代においては重要ですよね。その点で言えば、丸の内ハウスでやらせていただいたワークショップも面白かったです。」
普段も撮りますか?iPhoneを持つようになって日常的な撮り方も変わったりしたのでしょうか。
「InstagramをやるようになってからはiPhoneで普段から撮るようになりましたね。でも時々ちゃんと撮りたくなります。
先日、iPhoneで夜道の風景を撮りながら歩いていて、『これだといくらでも撮れてしまうし、解像度がちゃんとしたカメラだったらもっと違って撮れるのに』と思ったりして。自分の軸である写真に関しては、やっぱりちゃんと撮り続けないとだめだなって感じましたね」
今後の展望について教えてください。
「どうなるんだろうね。わかんないですね。オリンピックがありますから、ビジネスの人たちは二年後に標準を定めて動いてますけど、個人的なスタンスとしては常に10年後どうしてたいかな、子どもがいるからこういうビジョンで、っていうことの方が大切。今の僕にはそれが定まっていません。それが降りてくるタイミングまでは、自由にやっていようかなと思っています。ずっと何やろうかなって探してても全く出てこない。人生には、泳いでる時間が欲しいね。泳いでないと、降りてこない。ふらふらしててやりたいことが出てきたらやるだけ。大事なところで詰めさえきちっとやっていれば。それが僕のやり方です」
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若木信吾(わかぎしんご)
写真家、映画監督。静岡県浜松市生まれ。 ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真学科を卒業後、写真家として雑誌・広告・音楽媒体など幅広く活動。 代表作に『Let’s go for a drive』『Takuji』『Free for All』『A DAY IN THE LIFE』『Time&Portraits』『葬送』『英ちゃん 弘ちゃん』など。自身で出版社youngtree pressを主宰しながら、映画監督としても『星影のワルツ』『トーテムSong for home』『白河夜船』に携わる。2010年4月には故郷である静岡県浜松市に書店“BOOKS AND PRINTS”、2012年10月10日には浜松市に2店舗目“BOOKS AND PRINTS BLUE EAST”をオープンさせた(2013年に両店舗をKAGIYAビルにて統合)。2013年著書『希望をくれる人に僕は会いたい』。
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