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VOICE 48. | 2019. March | TADANOBU ASANO

VOICE.48 「絵を描く時間に、救われたんです」TADANOBU ASANO(俳優、アーティスト) | Photography by Keiichi Nitta

Interview_Ayae Takise  Composition & Text_Viola Kimura

 

 

今回のゲストは、近年ますます個性的な表現が光る俳優、浅野忠信。時に音楽家としても活動しながら、仕事の合間を縫って絵を描き続け、5年間に描いた作品は3634枚にものぼるという。一部はSNSなどでも公開されているが、ドローイング700点がワタリウム美術館の展覧会でも展示中だ(〜3/31まで)。展示されている作品は紙とペンのみで書き上げられ、ハードロック的なものからデッサン、落書き、漫画、抽象画など多岐に渡る。彼のパーソナリティや俳優、音楽家としての特性はそこにどう現れているのか。また今回の展示にはどんな想いが込められているのか。今回は丸の内からワタリウム美術館に足を運んで、話を聞いた。

 

 

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2018年春に丸の内ハウスで開催した「ZINE House」にも作品を並べてくださいました。今回のワタリウムでは、膨大な点数のドローイングを展示されていますね。この数年で、アーティストとしての活動に大きな動きを見せているようですが、何か変化があったのでしょうか? 

 

「絵を描くのは小さなころから好きだったので、ずっと描き続けてきました。俳優の仕事を始めてからも、チャンスを頂いて画集を2冊ほど出して、丸の内ハウスで展示をやらせて頂いたりして。ですが忙しいこともあって、いつのまにか、どこか面倒になってしまったんです。描くことについて、色々模索し、悩む時期がありました。

 

5年ほど前にある変化がありました。当時は中国で映画の撮影をしていて、すごくストレスを溜めてしまっていたんです。そんなとき、ふと控え室でコピー用紙の裏にボールペンで絵を描き出してみました。それが、自分にとってすごく良い時間で。

 

『白と黒の絵なら描ける』ということがわかって。ボールペンや万年筆で、ただ余っている紙に書けばいい。それからはA4の紙にどんどん描いていって。1000枚くらい溜まったら、画集でも出したいなと思っていたんです」

 

 

それが、今回の展示につながったんですね。展示を拝見して、俳優業の傍らこれだけの量を描いているなんてすごいと驚きました。到底追いつけない。

 

「はい、確か、絵のことをTwitterでつぶやいたのかな。そしたら反応があって、こうして展示の機会をいただけることになって。下書きしない、10分で描きあげる、って決めて描く。考えないで描きまくる。そうしていたら、これだけ描き上がっていました。

 

映画を撮っていてもそうですけど、『ぽい』ことをやってもしょうがないわけです。心が泣き叫んでいたり、怒り狂っていたりするときに、それを解消しようとした結果として映画が撮れた、絵が描けた。そういうことじゃないと、満足できないタイプなんです。だから、絵描きとしてプロかどうかはあまり関係ないと思っていますね」

 

 

 

浅野さんにとって、絵を描くとはどのようなことなんでしょう?

 

「中国でもそうだったのですが、掴みたいものがあるがゆえに、棘を出してしまうことがあります。悲しいことが起きたり、元気がないときに、絵にすごく救われるんです。役者では味わえないような居場所みたいなものを与えてもらえて、救われました」

 

 

 

 

VOICE.48 「絵を描く時間に、救われたんです」TADANOBU ASANO(俳優、アーティスト) | Photography by Keiichi Nitta

 

 

音楽の方面でもバンド活動やDJなどもされていて。THE CAMP BOOKの映像を拝見したのですが、すごく嬉しそうに曲を紹介されていましたね。ご自分が好きな世界を体現する場として音楽活動があるのかなと思ったのですが、それは絵を描く時にも通じているのでしょうか?

 

「音楽と絵とはまた違って、絵は自分にとってとてもプライベートなものです。音楽も、一人で部屋で楽しむのも良いんですけど、どうしてもお客さんと自分のものになってしまう。例えばライブでも、お客さんがいて、僕が歌う、という関係性がある。そうやって人に聞かせるとなると色々なことが関わってきて、俳優の仕事に近づいてきちゃうんですよね。それに比べて絵は、今日までの時点では、ものすごくプライベートで、自由にできるものです」

 

 

 

なるほど。絵を拝見していると、人が描かれているものが多く、エネルギーを感じました。役者さんのお仕事をされていると、役を作るため、人を観察しますよね。そうした力が現れているように思えました。

 

「めちゃ出てるかもしれないですね。いや、役者って面白い仕事だなと思います。やらなくていいことをやってるわけですからね。モノマネみたいな。その辺にいるおじさんを観察して、その人っぽく生きてみたりとか。ほんとに役者の仕事のおかげて描けてるってところはあると思いますね。

 

何かやってる人の絵が好きなので。丸の内へも、ビジネスマンを観察しに、風の強い日とかにいってみると面白いかもしれませんね」

 

 

 

ある意味、現実世界ではあり得ないことを、他のところで実現していらっしゃる。

 

「そうですね、役者の仕事もそういうところはありますが、絵の中の世界は自由ですからね。僕の見たい世界だけなので」

 

 

 

そうやって描かれた絵は、多くの人に「誰でも表現できる」という可能性を示唆しているようですよね。

 

「僕はどうにもならない感情を解消したい気持ちで描いているわけですが、『それで僕自身は救われたよ。もしかしたらあなたの息子さんが学校でもどうにもならない気持ちをここに吐き出すことができるかもしれない』なんてことを伝えることができたら。今回の展示が、そんなメッセージを受け取ってもらえる場所になってくれたら最高ですね」

 

 

 

描くという点において、今後やりたいことはなんですか?

 

「油絵だね。今まではめんどくさくてやらなかった絵の具に手を出して。そしたら水彩がものすごく面白くて毎日のように描いてるんですけど、自分がいま描きたいイメージは油絵じゃないと実現できないことがわかってきて。繊細なところが油絵にしか出せないんですよね。パッとやった時に、うまいこと下の色と上の色が、質良く出て欲しいんです」

 

 

浅野さんにしか描けない新しい世界がまた見えてきそうですね。ありがとうございました!

 

 

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浅野忠信(あさのただのぶ)

1973年11月27日神奈川県出身。俳優としては、1990年に松岡錠司監督の「バタアシ金魚」でスクリーンデビュー。セルゲイ・ボドロフ監督『MONGOL』は第80回(2008)米アカデミー賞で外国語映画賞にノミネート、2010年には根岸吉太郎監督『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』、木村大作監督『劔岳 点の記』にて第33回日本アカデミー賞優秀主演男優賞をダブル受賞。また、熊切和嘉監督『私の男』では、第36回モスクワ国際映画祭でコンペティション部門最優秀男優賞を受賞。俳優業のみならず、音楽家としても活動し、「SODA!」でバンド活動や、DJも行う。2003年には画集『BUNCH』、昨年末には『蛇口の水が止まらない』を発売し、現在ワタリウム美術館にて個展を開催中(〜3/31まで)。
http://www.watarium.co.jp/exhibition/1812_asano/index.html

 

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