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VOICE 47. | 2018. June | MARIE

VOICE.47 「エンターテイメントでキックバックしていくことが、私としての恩返しなんです」MARIE(モデル、ファッションデザイナー) | Photography by Keiichi Nitta

Text_Viola Kimura

 

 

今回のゲストは現在ファッションデザイナーとして奔走するマリエ。モデル、タレントとしての顔が広く知られるが、現在はJ-waveでナビゲーターを務めるほか、パーソンズ美術大学への留学を経て自身のブランドPASCAL MARIE DESMARAISを立ち上げた。10歳でデビューして以来多様な経験を重ねてきた彼女が、今どのような観点でものづくりに向き合っているのか話してもらった。

 

 

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パーソンズ美術大学を修了してからは東京が活動の拠点ですよね。丸の内へは?

 

「打合せでもよく来ています。ラジオのお仕事で、新店舗の取材で来たり。東京駅も商業施設もあるので、よく寄り道しています」

 

 

普段は都内のどのエリアで過ごしていますか。

 

「中野坂上のアトリエと、北参道のファクトリーで活動していて、周辺の街を歩いて刺激をもらっています。これまで中野あたりには全く縁がなかったのですが、たまたま良い物件があって。面白いカルチャーが集まる中野ブロードウェイにも近いし、カメラ屋さんや手芸屋がある新宿にもアクセスが良くて、自分に合っているかも、と。住めば都でどんどん好きになっています。北参道ではデザイナーのみんなとレーザープリンターやシルクスクリーンプリンターを使って色々作っています。VICE Japanやi-D japanのすぐ隣にあって、同志と情報交換ができるのも魅力です」

 

 

 

PASCAL MARIE DESMARAIS立ち上げから一年が経ちますが、実際にスタートしてみていかがですか。

 

「座学でいくら学んでもビジネスの現場になったらゼロからのスタート。縫い方は知っているけどそれをどう量産するかはビジネスを始めてみないとわかりません。大変なことがたくさんありますが、楽しくて仕方ないです。辛いことにも立ち向かっていきたいと思える、本当に好きなことに出会えたんだなと感じています。このTシャツに使っている高品質のコットンも、最先端の技術で手の届く価格帯にできるよう工夫しています。レーザープリンターや3Dプリンターも使い易くなっているので、ボタン1個にしても専門店にあるものだけのなかから選ばなくても良くなって、自分たちの理想のボタンを作ることができる時代。一つひとつの工程を細分化して、概念に囚われないようにしています。おかげでチームのメンバーには、迷惑かけてばかりです(笑)」

 

 

 

では素材や手仕事にこだわっていらっしゃいますね。

 

「『今、自分たちはどういうものを着たいのか』を常に考えて服作りをしています。そうすると、素材やつくり方にこだわらざるを得ません。例えば今日着ているTシャツは、コットンの大切さをもっと伝えていきたいということでずっと展開しているもので、シーアイランドコットンという世界最高品質の素材を100%使っています。生地と縫製だけで7,500円かかっているのですが、それで通常の価格設定をしたらなかなか手に入れることができない。そこで自分たちで刷ることでコストダウンしたりと、工夫を重ねています」

 

 

 

PASCAL MARIE DESMARAISと言えばアイテムの売り方も特殊ですよね。

 

「はい、私たちは東京ではオリジナルを売らないことにしているんです。福岡・神戸・仙台など、私の好きな地方の街で買ってほしい。それが地域活性化にも繋がったら良いなと思っています。地方での展開は、現在の充実した販路やネットショッピングのインフラがなければできませんね。また、このTシャツの意義についても従来のロゴプリントのあり方を再考しました。ブランドのロゴを身につけるとすれば、これまでだったら消費者がお金を払わなくてはいけなかった。ですが、ブランドからすれば、消費者にスポンサーになっていただいているわけですから、私たちがお金を出すべきだと考えたんです。そうやってブランドと消費者の関係性を変えていこうとしています。『ゼロからデザインの関係性を考える』ことをブランドの大きなテーマにしていて、生産はどのように進めていくのか、お客さまにどう提供していくのか、どう買ってもらうのか、最後に、お客さまがそれをどう捨てるのか。そこまで全てサステナブルにデザインしようとしています」

 

 

 

サステナブルのあり方についてお考えを教えてください。

 

「異業種の人同士でコミュニケーションを取ることがひとつのキーだと感じています。従来の社会問題は同業者同士で議論がなされてきましたが、複数の業種に視野を広げていくと色々なソリューションが見えてきます。ある産業の廃棄物が、別の産業では有用な素材になったりする。私たちは『ハイウェイブランド』というスローガンを掲げて、違うカテゴリの人と一緒にスピードを持って問題解決していこう、といつも話しています。一番最速で最先端の技術を提供する道を探るブランドになる、という思いを込めています。なので、リーズナブルなものも出せば、コラボレートもするし、値が張ってしまうものも発表します。日ごろからチームで目的地まで辿り着くためにどうするのか、を議論しています」

 

 

VOICE.47 「エンターテイメントでキックバックしていくことが、私としての恩返しなんです」MARIE(モデル、ファッションデザイナー) | Photography by Keiichi Nitta

 

 

そんなマリエさんの活動の源はなんでしょうか?

 

「日本で応援してくれるファンがとても大きな存在です。ファンの皆さんと共に成長していてることがすごく嬉しい。テレビによく出演していた頃はファンの皆さんも私も二十歳そこそこでしたが、今では一緒に三十代になっています。人生で築いてきたものを互いにシェアして応援し合っています。ファンの皆さんに会うと『マリエちゃんが頑張ってるから、私たちも頑張る』と言ってくれて。それを聞くとどんなに辛いことがあっても、走り続けなきゃいけないな、と思います。これまで私自身、体調を崩したり、くじけてしまったりしたこともありました。そんなときでもそばにいてくれたまわりの人や、ずっと諦めずにコメントを送り続けてくれたファン。そうした人たちに自分にできることは何か考えたときに、好きなことで最高のクリエーションを手にしてもらいたいと思ったんです。ブログで色々綴るのも良いですが、それよりもエンターテインメントでキックバックしていきたい。みんなも参加出来る形で。それが私としての恩返しなんです」

 

 

 

それが服作りにも現れているんですね。近年の東京のファッションカルチャーをどのように捉えていますか。

 

「ファッションに個性がなくなってしまったと言われていますが、私はファッションが均一化してしまったのは作り手の責任だと思っています。本当は誰もが自分だけのものに出会いたいと思っているはず。ですが生産者側が大量生産しかできないシステムになっている。このように、作り手に回ることでわかるようになったことがたくさんあります。一般論で語られることがそうではないと気付かされますね。これからは技術の向上によって生産のあり方も変わっていくはず。デザイナー達がどのように活動していくか、腕の見せ所です。それでファッションが変わっていくのがとても楽しみです。東京は世界で一番ファッションフリーダムが溢れている都市だと思います。NYやロサンゼルスにいると、自身のスタイルを貫かなくてはいけない風潮がありますが、東京では多様なファッションを楽しめる。ある日マスキュリンなレザーのジャケットを着ていて、次の日に花柄のワンピースを着ていても、ある日コンサバで翌日パンクロックでも受け入れられる。私自身も、NYでは少し強めなスタイリングになってしまうけれど、東京ではレーシーな格好ができる。そんな風に、もっとみんな色々なスタイルを楽しんだら良いと思います」

 

 

 

消費者とのコミュニケーションという点ではラジオのお仕事も大きいですよね。

 

「レギュラーとしてやらせていただいて三年目を迎えました。元々私もリスナーでしかなかったので、この仕事を始めるのはとても勇気が要ることでした。この道でのプロフェッショナルではないので、未だに勉強させていただくことばかり。スタッフの皆さんに色々と教えていただきながらやっています。制作会議に参加してどんなゲストを呼びたいかなど希望を出させてもらってとても有り難いです。テレビのお仕事と違い、リアルタイムでシェアする、ということに面白さを感じています。ラジオを聴いていると、なんだか友だちと話しているような気持ちになっちゃうことってありません? 自分ひとりに話しかけてもらっている感覚になりますよね。そういう意味で、これまではマスメディアで多くの人に見てもらう、というお仕事の仕方でしたが、そうではなくて一人の視聴者に対して語りかけていきたい、と思ってやっています」

 

 

 

ブランドやラジオの他に、最近力を入れているお仕事は何ですか?

 

「本の歴史をファッションの観点から紐解いていくという海外のヒストリーチャンネルへ出演させていただいています。ファッションと歴史はとても深い関係性を持っていて、戦争などによる貿易の販路の変化で人々の装いも大きく変わってきました。特に日本では、第一次・第二次世界大戦による人々の生活の変遷のなかで、失われた技術がたくさんあります。この番組でのお仕事を通じて残さなければならない技術の存在を伝え、ファッションと平和への働きかけにつながり、活かしていきたいと思っています。直近ではアムステルダムにオープンしたラーメン屋さんのユニフォームを作らせていただきました。徳島県の工房へ足を運び、藍染めの生地をオーダーしてデザインしました」

 

 

 

それはこれまでのマリエさんのキャリアや繋がりがあるからこそ橋渡しできることですね。今後チャレンジしていきたいことは?

 

「食とファッションを繋げる活動をしています。例えば、飲食店で出たゴミを染料として服作りに活用しています。この春デザインさせていただいた、DRAWING HOUSE OF HIBIYAのユニフォームも桜で染めています。ナチュラルなものに身を包むと、リラックス出来て自然体でいられますよね。化学染料で染めた服より、ナチュラルな染料で染めた服を着たほうが身体を暖めたりと健康を促進する効果があると立証されています。食と繋がったファッションを通じてそんな体験を広めていきたいです。そうした自然の力を信じています。今後はもう一歩進んで、食用に育てられた動物の骨や皮も活用していけたらと考えています。NYでは飲食店が飼っている豚や牛の骨などをバッグやアクセサリーに使うプロジェクトが始まっています」

 

 

 

今後の展望について教えてください。

 

「日本での展開を続けていくことはもちろんですが、アメリカで開催されるCFDA ファッション・アワードで賞を取ることを目指しています。賞を取ることが全てではありませんが、”デザイナーのマリエ”が日本でもっと認知していただけるようにするには必要なプロセスだと思っています。そうした経験を経て、お客さまやファンの皆さんにもっと恩返ししていきたいです」

 

 

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マリエ

10歳でデビューして以来、女性ファッション誌「ViVi」専属モデルとして活躍しながら、数々のバラエティ番組への出演で注目を集める。2011年にはNYのパーソンズ美術大学に留学しファッションを専攻。帰国し2016年からはJ-wave「SEASONS」でナビゲーターを務めるほか、2017年にはファッションブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS」をスタート。新しいファッションのあり方を提案しながら日々奔走している。

 

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