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VOICE 39. | 2016.August | HIROSHI IMANAKA

VOICE.39 HIROSHI IMANAKA(アトリエ インカーブ クリエイティブディレクター) | Photography by Keiichi Nitta

Text_Viola Kimura

 

 

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アーティストをプロデュースする際に大切にされていることは何でしょうか。

 

「通常、「障がい者」というとどうしても下位に置かれてしまうんですが、アーティストである彼らのクリエイティビティは僕を上回ります。彼らのクリエイティビティは、管理したり教育したりする対象ではありません。彼らが自由に、誰に管理されることもなく、のびのびと制作出来る場を可能な限りつくっていくのがアトリエインカーブの役目だと考えています。制作面で唯一出来ることがあるとすれば、絵の具や画用紙を買いにいくことくらいです。
 国内でアートフェアなどに出展する場合も、「どういうところに出せば彼らの尊厳を大切にできるか」ということを軸に、彼らに見合う場所であるかを判断しながらディレクションをしています。
 作品の制作については完全に僕らはノータッチです。他人が作品に手を入れたり、コラボレーションして作風を変えてしまうということが起こっていますが、僕らは絶対にそんなことはしない。

 アトリエ インカーブのアーティストの作品は「現代アート」と位置づけています。男性女性、肌の色が違う方、右足がない方も、現代に生きる者はみんな「現代人」です。現代人が創作するものということで「現代アート」と呼んでいます。
 障がい者の方のアートを「障害者アート」と呼ぶと、呼ぶ方は気づいていませんが、受け取る方は非常に強いスティグマを感じます。それを彼らに感じさせてはいけません。それ以上に、彼らの作品のクオリティは素晴らしいものですから。海外のアートフェアに出展申請する際も、アーティストに障がいがあることを強調していません。純粋に作品のクオリティと展示ブースのデザインで勝負しています。
 海外では、現代アートの美術館に障がいのあるアーティストの作品が収蔵されていたりと、とてもフラットです。もう少し日本でもそういう感覚が広がっていけば良いと思うのですが…。
 国内でこのようなスタンスでやっているのは僕らだけだと思います。日本では「アウトサイダーアート」とか「アール・ブリュット」という冠をぶら下げて、そのなかに障がい者のアートを入れていくというやり方が浸透しており、とても危険だと感じます。せっかく「アート」と認められているのに。女性作家のことを「女流作家」と言いますが、これと同じことですね。簡単にカテゴライズしてしまうことは非常に危ない行為です。」

 

 

 

障がいのある子どもたちに向けて、「アトリエ インカーブ ジュニア」も始められたそうですね。

 

「とても面白いですよ。これまで18歳以上、一番上だと60歳の方とやってきましたが、「ジュニア」は小学生から高校生を対象にしています。彼らにしかない破壊的な制作は、我々としても大変刺激的です。
現在50名が、週に一度、一時間のプログラムを少人数(1人〜3人)で行っています。
 これくらいの年代の活動というのは非常に重要です。親御さんのお話を聞いていると、特に発達障がいの方は、自己肯定感が非常に少ない。塾や学校でもはじかれて、行くところが少なく、何をしても怒られてしまう。
 でも、キャンバスの上では怒られないんです。自己承認の場になっているんですね。アート活動を通じて、そういった経験を彼らに持って帰ってもらえれば。子どものころに「何をしてもいいんだ」という世界に少しでも触れてもらうことはとても大事です。」

 

 

 

東京オリンピック-パラリンピック組織委員もされていますね。4年後に向けて、日本はどう変わっていけば良いとお考えですか?

 

「障がい者の方々の文化活動を、オリンピックと接続させる。いま、そこについて話ができる人間が少ないんです。文化・教育委員会の委員は28人いて、オリンピックとパラリンピックの2つがあるのに、オリンピックの話が中心になりがちです。オリンピックとパラリンピックはパラレルなはずです。重要な議題であるにも関わらず当事者の話し手が少ないと感じています。
 そもそも、パラリンピックとオリンピックを分けること自体に違和感を持っています。同じ競技場で同じ競技に挑めば良いのに、義足のランナーは認められない。

 僕らアトリエ インカーブが社会に投げかけている「フラットな場で“現代アート”に触れよう」という意識と同じように、オリンピックとパラリンピックに限らず、ものごとへフィルターをかけずに平等に見ていけるような視点が、日本の社会に少しずつでも広がっていけば…。自分の活動がその一助になれば、という思いでやっています。」

 

 

 

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今中博之(いまなかひろし)
1963年京都市生まれ。乃村工藝社デザイン部勤務(1986〜2003年)を経て、2002年に社会福祉法人 素王会 理事長に就任。知的に障がいのあるアーティストが集う「アトリエ インカーブ」を設立。作品を国内外の美術館やギャラリーに発信している。
クリエイティブディレクターとして高齢者・児童・障がい者の空間デザインを提案。ソーシャルデザインの講演多数。グッドデザイン賞(Gマーク・ユニバーサルデザイン部門)、ディスプレイデザインアソシエイション(DDA)奨励賞、ウィンドーデザイン通産大臣賞など受賞多数。一級建築士。偽性アコンドロプラージア(先天性両下肢障がい)を持つ。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の文化・教育委員会委員、エンブレム委員。厚生労働省・文化庁の委員として参加。
著書に『観点変更 なぜ、アトリエ インカーブは生まれたか』(創元社)など。

 

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