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VOICE 38. | 2016.April | TAKATSUGU SASAOKA

VOICE.38 TAKATSUGU SASAOKA(料理人) | Photography by Keiichi Nitta

Text_Viola Kimura

 

 

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「丸の内シェフズクラブ」では缶詰の開発も話題を呼んでいますよね。

 

「私達は震災の前から東北へ随分行っていたんです。以前より繋がりのあった福島の漁業関係者や農業生産者の方々と、震災の後もお付き合いさせていただいています。『Rebirth東北フードプロジェクト』というのをスタートして、現地の食材を使ってフェアをやったり、宮城食材を使って缶詰を作ったりしています。今年で3年目になりますが、これまで6種類の缶詰を作ってきました。毎年3月に発売していまして、今年も先日発表になったところです。
石巻と気仙沼の缶詰メーカーさんと恊働していて、毎回テーマが決まっています。私が以前やらせていただいた際は、石巻でサバを、フランス料理のシェフでいらっしゃる三國さんは気仙沼でサンマを担当しました。実際に工場に訪れて開発をしていきました。工場では、その日採れたばかりのお魚を、すぐ缶詰にしていきます。お刺身にするレベルの一番新鮮な状態のものを缶詰にしているんです。美味しいものをつくるコツは、やはり良い食材を手に入れることなんですよね。そういう点では缶詰ってとても優れています。強烈にフレッシュな状態のものをすぐに缶詰にしているなんて、僕は知りませんでした。そうした発見が面白かったです。僕たちの世界では例えば何かを火にかけたら最初は強火、途中から弱火にして、あくが出たらあくとりをして、ことこと煮て、調味料を入れて…と手間ひまかけて作っていきますが、缶詰は採れたてのものに調味料を入れて、すぐに蓋をしてしまう。あくなんかとらないし、味付けは一回こっきり。言われてみれば当たり前ですが、そうした作り方をしているなんて、驚きでした。ですから、自分の料理とは全然違うやり方をしているその工場で味の監修をしてほしいと言われたときは頭を抱えてしまいましたね(笑)。ですが、そうした現場で味を調整しながらお仕事をさせていただいたのはとても面白い経験でしたよ」

 

 

 

丸の内で活動される面白さはどういったところでしょうか。

 

「今まであまり気にしてこなかったことが目の前にぱっと現れる瞬間が、丸の内でやっている面白さを感じる瞬間です。丸の内ハウスでの『SO HAPPY』のメニュー提案でも、先ほどの『Rebirth東北フードプロジェクト』の缶詰開発の際もいろいろな驚きや発見がありました。もうひとつの楽しみは、丸の内シェフズクラブの活動からこれまで出会えなかった生産者の方々にご縁を頂けることです。いろいろな色や味の食材に出会えて、それらを使えるというのは本当に面白い。やはり気候、風土といったことは、現地に行ってみないとわからないことが多いんですよね。山梨のフルーツは美味しいのはこういう気候だからなんだ、とか、朝と夜はこんなに寒暖差があるんだ、とか。同じ涼しい、あたたかい、にしても東京とは湿度や感じ方が全然違う。普通に旅行にいくときはあまりその様な事は気づきませんが、生産者に会うつもりで訪れてはじめて感じられることが沢山あるんです。
ジャンルが違う人たちが集まるのもの楽しいところですね。イベントの際などに、フレンチやイタリアンなどのシェフと和食の僕が一緒に厨房で作ると、色んなことが起こる訳ですよ。そういうやり方するの? そういう味の出し方するの? って。みんなの色々なテクニックが見れたり、食材に対する考え方、色々な味の乗せ方だったりを知ることが出来る。料理の組み立て方がそれぞれ違うので、お互いそれを見て楽しんでいます」

 

 

 

お店でのお仕事やさまざまな活動において、笹岡さんらしさというのはどのような点なのでしょうか。

 

「本店では食材の美味しさを伝えようと思っているので、その食材らしさをストレートに伝える料理が多いです。料理って食材を湯がいて、つぶして、寄せて、形を変えることもできる。そういう料理も案外多いですが、僕は食材をそのまま使った分かりやすい料理が多い。それが本店らしさです。丸の内だと、シンプルなだけだと面白くないので、季節にある食材を、旬のときに上手く使いながら、形を少し変えてお出ししています。和食って、まず『走り』があって『旬』があって、そして『名残』、と3つの期間があるので、それを上手く使ってます。コース料理のなかにこれからやっと旬を迎える『走り』が感じられるもの、今が盛りで美味しいと言っていただける『旬』のもの、十分食べたけれどこれくらいでも美味しいね、という『名残』のもの。ひとつのなかにその季節らしさが全部入っているというのが笹岡らしさかな、と思っています」

 

 

 

SO HAPPYでは夏の体にぴったりのお料理を考案くださいましたね。

 

「今まで普通につくってきたものについて改めて考えさせていただく機会でした。当たり前のことをやると、こんなに栄養が採れて体にいいことがあるんだ、と、和食は理にかなったものであることを再認識させられましたね。
例えば鶏のササミと三つ葉とわさびと海苔を和えて出す、というのはよくある合わせなんですけど、調べてみると海苔もわさびもものすごい抗酸化作用があるんですよね。三つ葉はビタミンが多い、鶏肉はタンパク質が多い。それって夏の体がほしがる物が全部入ってるんですよね。今回の企画をやるにあたって何を使えばいいかな? と考える時に、普段つくっているものをお出しするだけど十分だということがわかりました。例えば梅を焼いて、長芋と三つ葉と一緒にお出ししたり。お料理に含まれるビタミンAはお肌に良くて免疫力を上げてくれる、ビタミンEは体の仲の老廃物をよく出してくれる、といったことを改めて勉強させていただいて。やり始めたことで、僕たちって自然にバランスを取っているんだな、それもかなり上手に栄養を吸収できるようになっているんだな、というのがよく分かりました。いつもやっているメニューで、当たり前に栄養のあるものを作れていて、ちゃんとバランスが採れている。そういうことをお伝えしながら丸の内のビジネスマンのみなさんにお料理を食べていただけたら良いな、と思いました。
今回のイベントではちょっとした仕掛け付きのプレートでお料理をお出ししました。例えば、蓴菜の横には『目覚めたても美人』といった一言を添えて。野菜のおひたしには『心も体も軽快に』、白和えには『いつもよりメイクが楽しくなる』。だし巻き卵には『ノースリーブがよく似合う』といった具合で。これらは宇一さんが考えてくださったのですが、こうした言葉が添えられているとこちらもすごく楽しくて。こういうやり方があるのか、と驚かされました。こうした楽しませ方を上手く取り込んでいって、みんなが食べれば自然と元気が出てくるような、そんなメニューが作れたらな、と思っています」

 

 

 

今後の展望について教えてください。

 

「コンスタントに全国の生産者に会いにいくことは続けていきたいです。繋がりを大事にして、少しずつ面白いことをうちのお店に取り込んでいきたいですね。僕は割と東の地域に行くことが多いので、西のほうにも行ってみたい。築地を活用しつつ、地方の生産者の方々からの食材もお店でお出ししたいです。みなさんにお力を借りながら、今以上に笹岡らしさを感じていただけるお料理を出していけたら、と思っています」

 

 

 

 

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笹岡 隆次(ささおか たかつぐ)
1962年東京生まれ。赤坂の料亭 長谷川で料理の世界に入る。赤坂 川崎出身の吉原綾二氏に師事。1997年、広尾に「天現寺 笹岡」を、2007年には新丸の内ビルに「恵比寿 笹岡」をオープンする。店舗のオーナーシェフを務めながら、企業とのコラボレーションや共同開発、メディアへ多数出演するなど幅広く活躍。「丸の内シェフズクラブ」のメンバーとして食育の活動も行っている。

 

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