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ETHICAL FASHION INITIATIVE | Panel Discussion

 

ファッションと途上国支援を結びつける
エシカル ファッション イニシアティブのパネルディスカッション

 

12月に開催されたエキシビション「HONESTLY CRAFTED FASHION FROM AROUND THE WORLD」。その主催者である国連機関、国際貿易センターのプロジェクト“エシカル ファッション イニシアティブ”のシモーネ・チプリアーニ、ユナイテッドアローズの栗野宏文、デザイナーのステラ・ジャンらを迎え、パネルディスカッションが行われた。(敬称略)


 

栗野宏文(以下栗野):本日はエシカル ファッション イニシアティブ(以下EFI)というプログラムがどういう活動をしていて、それがファッションに従事する者とどう関係があり、また社会にどう役立っているかを関係者から直接、説明してもらおうと思います。最初に米国・国際貿易センター(以下ITC)の事務局長アランチャ・ゴンザレス(以下ゴンザレス)さんお願いします。

 

ETHICAL FASHION INITIATIVE | Panel Discussionゴンザレス:ITCは企業家精神を育てることを基本に、貧困の削減、国の開発の援助、そして貿易を通じて、途上国の女性と若者の育成を目指しています。ケニア、マリ、ハイチ、ガーナ等の小規模な生産者、97%が女性ですが、彼女達がユナイテッドアローズ(以下UA)等で扱う美しいファッションアイテムをつくれるようスキルアップを図り、能力を構築するのを支援しています。国連はビジネスをビジネスとして成立させながら、世界を良い方向へと導きたい。私達が言いたいのは、チャリティをしているのでなく、仕事をつくってあげたいのだということです。
ではこのプロジェクト、名付けてエシカル ファッション イニシアティブのトップであるシモーネにこの意味について話してもらいましょう。

 

シモーネ・チプリアーニ(以下シモーネ):私達の役目は、有名なファッションブランド向けに、途上国の生産者が製品を納入できるまで、スキルを構築することですが、それはUAのようにファッション産業の主要なパートナーと組み、さらにステラ・ジャン(以下ステラ)のような著名なデザイナーと組むことで可能になります。UAは、EFI向けに特別なブランドを作ってくれました。それがTÉGÊ UNITED ARROWSです。EFIの生産地はケニア、ブルキナファソ、ガーナ、ハイチ、マリで、近々パレスチナ、カンボジア、ペルーも加わります。EFIを行う理由には、開発の援助や貧困削減ともう一つ、ファッションには個性があるべきと考えていることもあります。ファッションの独自性は、デザインと製品を手がける工芸家の手腕、このふたつから生まれます。私はファッションの聖地フィレンツェで生まれましたが、私が少年の頃、ファッションは職人が手がけるものでした。だから製品の一つ一つが美しかった。その後、大量生産という方法を人間は発見し、ファッションの性質は変わりました。今は立ち止まり、ファッションの起源や本当の意味を考えるようになっています。

 

ETHICAL FASHION INITIATIVE | Panel DiscussionではEFIはどう運営しているかというと、まず主要なパートナーと製品開発をします。担当者が生産拠点に足を運んで、どんな素材があり、どんなスキルをもった働き手がいるのか見極めなければならないので大変です。そして入手できる素材や使えるスキルを考えたうえでデザインします。次に小規模生産者とともにデザインをかたちにするよう色々と手を加えます。製品を出荷するまで携わるので、たくさんのトレーニングと作業が必要です。生産拠点も多国に渡るので、のべ7000人を雇い一大工場のようなかたちで生産工程を管理します。
それから一緒に仕事をした女性達がどう変わったかという社会調査をします。私達が公平な労働基準を満たした雇用をもたらしたことで、女性達の環境は改善されていくことがわかっております。これまで仕事をした90%の人の生活が、事業主になることができた、収入が8倍に跳ね上がるなど、女性のエンパワーメントの向上に寄与しています。

 

 

さらにこの製品が背負うストーリーをパートナー、デザイナーと伝えていきたいと考えています。消費者はこうして作られた品を身に着ける時、ハッピーになります。服が美しいだけでなく、美しいストーリーを背負って世に出た製品で、その生産者が自尊心を持って仕事ができる、それは正義の生産体制の下に作られているからです。ファッション業界に身を置いてよかったことは、ファッションで世の中が良く変わるのを目撃できるからです。これはファッション業界で確かな目をもった栗野さんのような人がいなければ成立しません。私は彼をファッション業界の哲学者と考えています。そしてそんなプロも協力するデザイナーがいるからこそやり甲斐があるのです。私達と同様ファッション哲学を持ち、大変成功しているブランドのデザイナーを紹介します。ステラ・ジャンさんです。

 

ETHICAL FASHION INITIATIVE | Panel Discussionステラ:クリエイターになろうと思った時、見た目が美しいだけでなく、作品に魂というか、意味を持たせたかった。自分の歴史をそこに織り込めればと考えたのです。私はローマで生まれ、父はイタリア人、母はハイチ出身のいわゆるハーフで、私の中で二つのまったく違う文化が共存している。その異なる文化を一つのスタイルに織込む…、ファッションで多文化を融合できれば、実社会でも文化同士が融合できることを提案したかった。EFIを通じて先進国と発展途上国の特性を融合できるのです。例えば私の今日着ているパンツは先進国イタリアの文化を継承しており、トップスは発展途上のマリで洗練された高度な技術で染上げたもの。このスタイルを可能にしたのもITCの指導のおかげです。私達は違う文化や遠くの文化を恐れてはいけない。このケース内のスタイリングは、ストライプの生地がブルキナファソ、プリントそしてネックレスはハイチ、シャツはイタリア、3か国の文化が納まっている、さらに私が一国というかたちで加わると、ファッションに意味を持たせたことになる。これを現実の社会でも実践したい。ファッションという強力なツールを有効活用する、そうすれば意味ができます。

 

ETHICAL FASHION INITIATIVE | Panel Discussion栗野:UAはこのプロジェクトに関わって一年ちょっとです。最も魅力を感じたのは、様々な国に残る伝統的な生地やマサイ族のビーズの作り方などをファッションを通じて世の中に伝えられるということです。もちろんEFIのコンセプトへの共感がいちばんですが、洋服屋としてお客様により素敵なものや意味のあるものをお届けしたいというのが最大の参加理由です。さらにそのプロセスで、生地を織る人やビーズをつくるマサイ族の女性達に会うことで、彼らが何十年何百年と旅をしてきたカルチャーに出合うことができます。もちろんビジネスですが、売る物の背景にあるクリエイティビティとかアフリカの女性らの伝統工芸に対する情熱を知ることで、自分達の仕事により深い喜びを見出せる。そしてそれをお客様が購入され、ハッピーになっていただけるとすごく嬉しい。
さて私はステラの美意識がすごく好きです。それについて、また洋服の発想の源について話を聞きましょう。

 

 

ステラ:コレクションは私のアイデンティティを反映した、私の物語です。父からは仕立ての文化を、母からは大胆でカラフルで陽気なカリビアンカルチャーを継承しています。私自身がもともとストーリーを紡ぎ、それを伝承していく役割を負っていますが、ITCを知ってからは私のために働く、多くの貧困女性のストーリーを伝えられるようになった。私達が使用する生地は彼女たちの文化が結集されているもの。生地やスキルの利用だけでなく、彼女らの伝統に出合ってそれを製品に変えていくのです。結局コレクションごとに一つの文化が加わるくらい毎シーズン、インスピレーションをもらっています。私が彼女達にチャンスを与えるのと同じくらい、私も彼女達からチャンスをもらっているのです。文化に遭遇するということは、ウィキペディアに出てくるような歴史が、一つ一つの製品に宿っているほど深いことであることを理解してほしいのです。私は生産者から学んで、一緒に成長していきたい。

 

 

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